近年欧米で注目を浴びている、ある天然成分があります。その成分の名称はCBD(カンナビジオール)。現在、この成分が、健康・美容業界をはじめ、果てはペット業界までをも含めた一大ブームを巻き起こしているというのです。
この成分、実はある驚くべき特徴を持っています。皆さんは、日本では麻薬として扱われ、取引が厳しく規制されている作物である「麻」をご存じでしょう。実はこのCBD、その麻から抽出される成分なんです。そのため、欧米でブームになっている一方、日本ではそのマイナスイメージもあって、まだあまり話題にはのぼっていないようです。
ここで、そもそも麻にはどのような成分が含まれているかをご紹介しましょう。実際に麻から抽出される成分にはいくつかの種類が存在しますが、そのうち、主な成分を占める二種類は、1960年代にイスラエルの化学者であるラファエル・ミシュラム博士の研究によって発見されました。
その一つがTHC(テトラヒドロカンナビジオール)と呼ばれるもの。こちらは人の脳内にあるCB1レセプターと呼ばれる受容体に対する親和性が非常に高く、その結果、大変強い向精神作用性を持っています。そのため、使用した人に幻覚や多幸感、場合によっては精神錯乱などをもたらすのです。
ですから、THCは世界中の多くの国で麻薬として扱われ、流通が厳しく取り締まられています。もちろん日本でも、使用すれば麻薬取締法違反となってしまいます。
一方、二種類の成分のもう一つが先程紹介したCBDです。こちらもTHC同様、人の身体にさまざまな作用を持つ成分ですが、その内容は大きく異なります。CBDの特徴は、THCと分子式は同じであっても構造式は違うこと。
当然、THCで見られるようなCB1レセプターに対する親和性や、強力な向精神作用は持っていません。つまり、精神や神経への悪い影響を与えない成分なのです。そのためCBDはこれまで主に医療の方面で活用されてきました。もちろん、日本での使用はまったくもって違法ではないのです。
CBDが人体に効果を与えるメカニズムとは?
それでは、CBDは具体的にどのような形で人の身体に作用していくかを説明しましょう。人にはもともと、生きていくための身体調節機能であるECS(Endocannabinoid System:エンドカンナビノイド・システム)が備わっています。
これは、日常の動きや認知能力、食欲や睡眠、メンタルコントロールなど、基本となる生態機能が崩れないようにバランスを保っていくための重要な役割を果たしているものです。ところが、人の身体のついての研究が進められた結果、人は加齢ととも進む老化によってこの機能が弱まってしまい、それがさまざまな疾患の原因となることがわかってきました。
CBDはこのECSに対してプラスとなる働きかけをします。人の脳内にあるレセプターと呼ばれる受容体に作用するところは先ほど紹介したTHCと同じですが、THCとは違ってレセプターへの親和性やそれによる強い向精神作用は無く、ECSのバランスを整える役割を果たします。
実際、現在多くの人々が悩んでいるストレスや不眠をはじめ、さまざまな疾患などにも効果があるということが、研究により明らかになってきています。2017年に発表されたWHO(世界保健機関)による『カンナビジオール(CBD)事前審査報告書』でも「健康維持のために有用な治療であるかもしれないという初期的なエビデンス」があるとされているほか、精神障害や不安、がん、炎症、感染症などの多くの疾患に効能があったことが示されているのです。
CBDはいまや、健康や美を求める人々の一大ブームに!
そんなCBDですが、最近その一大ブームが起こる舞台となった国が存在します。それはアメリカ合衆国です。この国では、麻については違法薬物のマリファナと、そうではない作業用ヘンプと呼ばれる二種類に区分されています。
この両者、DNAは同種類といえますが、それぞれは別の植物です。アメリカ合衆国の法律ではTHC含有量が20%を越えるものをマリファナ、THC含有量が0.3%以下のものを産業用ヘンプと規定して、前者の流通を厳しく取り締まっています。一方、後者の産業用ヘンプは食用や繊維の原料、工業、建築材料として幅広く用いられてきました。
近年、アメリカ合衆国ではそんな産業用ヘンプの取り扱いが変更され、規制植物指定を外された結果、通常の農作物と同じ扱いとなったのです。それとともに産業用ヘンプから抽出したCBDを含む商品の流通もOKとなったことで、CBDを含んだ商品がアメリカ合衆国国内の市場に一気に広まっていきました。
今話題の成分「CBD」の効果・効能・サービスとは?
CBDがどのように活用されているかを見ていきましょう。先ほどご紹介したように、CBDにはストレスや不眠、体の痛みなどを和らげる効果があることから、そうした効能をフルに活用できる商品が数多く登場しています。
例えば筋肉や関節の痛みなど、人々の生活を不便にしてしまう症状を緩和する塗り薬。また、皮膚の免疫力に働きかけて、湿疹やニキビ、アトピーで起こるかゆみを抑え、傷の再生を促進させるクリーム。
また、ティンクチャ―と呼ばれる、舌に垂らして使う熟睡を呼ぶリキッドなども人気です。また、完全にオーガニックな環境のもとで育てられたCBDフラワーなども、ビーガンが多く集まるカフェなどで幅広く販売されています。こちらは石鹸の材料や料理など、幅広く使う事ができるそうです。
さらに、CBDオイルやティンクチャーを用いたフェイシャルやマッサージのサービスが幅広い層から注目を集めているほか、数多くのヨガ、メディテーション(瞑想)スタジオでもCBDを組み合わせたコースを提供しているなど、アンチエイジングやリラクゼーションの分野でも盛んに製品やサービスがリリースされているというから驚きです。
このような分野では、人々のホリスティック・ウェルネス(人々の精神を含めた全身を健康にしていくという考え方)を目指していくための手段の一つとして、CBDが活用されています。このように、アメリカ合衆国では現在、美容・健康業界を中心としたCBDの一大ブームが巻き起こっているのです。
今やペット用の製品も! さまざまに広がるCBDの用途。
なんと、CBDの巻き起こしている旋風は、人間を対象としたものだけにとどまりません。もともとヨーロッパでは、ソフトドラッグと呼ばれる大麻の使用規制が部分的に緩和された国が存在するなど、麻が広く使われてきた歴史があります。
そんなヨーロッパのスイスを本拠地としたある会社では、何とペット向けのCBD製品を実用化して販売しているといいます! 研究の結果、人間と同じように哺乳類の動物の多くはECSを体に備えていることが判明したそう。
そしてCBDも人と同じように有効であるとわかったために商品化されたらしいのです。ペット向けの商品を作るにあたっては人向けの製品とは一部の成分を変え、不要な刺激が起こらないようにして、きちんと動物にマッチした製品に仕上げられているそうです。
このような商品が出てきていることからも、欧米では人々だけではなくペットまでもがより満足した生活を送ることができるように、CBDが大いに活用されていることがわかりますね。
一部で、拡大するCBDの使用を規制する動きも。その扱いについてはまだ検討中。
これまでご紹介してきたように、アメリカ合衆国やヨーロッパで一大ブームを巻き起こしているCBD。ですが、その速すぎるスピードが災いして、実はアメリカ合衆国内では規制の動きも出てきています。
例えば数年前、FDA(アメリカ食品医薬品局)が「CBDの飲食物への使用は法的に認可されているわけではない」という発表を行いました。また、それを受けて、ニューヨーク市の保健局は「レストランやカフェで、CBDを含む飲食物の販売禁止」という規則を作りました。
当時、すでに多くのレストランやカフェではCBDを含んだ料理や飲み物が提供されて人々にも人気となっていたため、この突然の決定は飲食業界を一時的に混乱に陥れたと言われています。実際、保健局の決定には「罰則ありきで、啓蒙活動が行われていない」などの批判も巻き起こったと言います。
しかしその一方で、料理や飲料に人々が自分でCBDを含ませることは今のところ特に問題とされていません。そのため、こうした規則はちぐはぐであると指摘する声もあるほか、一部のレストランなどはCBDを含む食料品店を開き、CBDを含む商品を販売するなどして対応しているようです。
今回、このような決定が行なわれた背景には、急速に拡大するCBDのブームに対し、どのように扱うかをまだ行政側が決定できていないという事情があるようです。
実際、FDAはCBDの取り扱いについて識者を招いて公聴会を開いたほか、パブリックコメントの幅広い募集を行ない、その扱いについて考えていくプロセスを踏んでいます。現在、アメリカではCBDの位置付けについて、進行形で検討が続けられている状況にあると言えそうです。
製品による品質の差も。自分でしっかり製品を確認することが大切。
ブームに乗る形でCBD製品の数や種類も増加していますが、CBD製品を取り扱う小売業者からは「製品をどう活用するか、消費者自身がしっかりと決めておくことが大切」という声も聞かれます。
子どもでも摂取できるような安全なものではありますが、どのようにして自身の健康や美容を追究していくかというテーマにおいて、CBDをどのように活用していくかを考えることが重要と言えそうです。
また、CBD製品の製造プロセスも業者でバラバラなため、それぞれの出どころをしっかり確認することも重要です。ある会社の担当者によれば、麻全体から抽出されたCBDの方が、麻そのものに含まれる微量な成分と相乗効果を発揮してくれるとのこと。さらに、CBDを麻から取り出す際に用いられる溶媒もポイント。
製品によっては石油から作られたガスなどを用いている場合もあるため、注意が必要だと言います。また、麻の原産地や栽培方法なども、それから抽出されるCBDの品質に直結する大切な要素。これらを自分自身で確認したうえで製品を選ぶようにしましょう。
なお、先ほどご説明したように、CBDは人の体に対してさまざまな効能をもたらします。しかし医学的に症状の確実な改善や、その効果が証明された研究はまだ発表されていません。
そのため、医学的な効能を前面に押し出したり、病気の改善を謳った商品は避けた方が良いでしょう。また、CBDを実際に使う時も、あくまで自分の健康や美容をサポートする役割として使うと考えたほうが良さそうです。
今後、CBDの市場はますます拡大し続ける
ここまで、現在一大ブームとなりつつあるCBDについてご紹介してきました。法的な取り扱いについてはまだ検討途上であったり、その製品の品質が業者によってバラつきがあるなどの課題は存在していますが、今後世界中の多くの人々によって使われ、その市場規模がますます拡大していくことは間違いなさそうです。
そのブームの波に乗り、実際に日本でもすでに健康食品などの形で流通が始まっていますが、世界的なブームの波に乗って、今後ますますその商品の数やバリエーションは多くなっていくことでしょう。
なお、現在、日本国内では法的な規制により純国産のCBD製品は製造されていないため、基本的に代理店を通して輸入された海外製の製品を使うことになります。私たちもしっかりそれらの製品を確認して自分にマッチしたものを選び、充実した生活を送るために活用していきたいですね。